なんでもないことのようですが、この点への配慮が欠けているために、ITの導入に失敗している例が非常に多いのです。
あるITを導入する場合には、前もって導入しておくべきITがあるというわけです。
もし前もって導入しておくべきITを、まだ導入していない場合には、それらのITを導入計画に加える必要があります。
ITの導入は段階的 なのです。ITの導入には一足飛びはないのです。
この辺の考え方は、経理業務と同じでしょう。
仕訳ができなければ、貸借対照表や損益計算書は作れません。財務諸表の見方がわからなければ、損益分岐点分析はできません。
ITの活用には、一足飛びはないのです。
導入するITを使うことになる社員にとって、前もって導入しておくべきITを使いこなすために必要な技術習得が終わっていない状態で、レベルが高いITを導入されてしまうと、学習することが多すぎて、導入したITを、結局使いこなせないのです。
ここで問題なのは、自社のIT活用能力に応じて適切なITを選んで導入するということは、そう簡単なことではないということです。
話をわかりやすくするために、ビジネス上の解決すべき課題があり、その課題への取り組み方の中で、今までの内容を説明してみます。
まず、「目的の達成に必要な仕事をすべて洗い出す」ことが必要です。
目的を達成するためには、業務処理手順の変更が必要かもしれません。インターネットでの集客についてのノウハウを理解しておく必要があるかもしれません。幹部社員の意識改革が必要かもしれません。
目的を達成するための手段の一部として、ITがあるわけです。
次に、「洗い出したITについて、どのITから導入するのか順序を決める」必要があります。
ひとつのITを導入するには、そのITを使いこなすために必要な前提となるITがあるということです。
この2点は、IT導入の成功/失敗を左右する、とても大切なことです。
たとえば、営業では次のような顧客獲得プロセスがあります。
- 自社の商品やサービスに興味がある見込み客を集める(集客)
- 集めた見込み客が知りたい情報を提供する(見込み客への情報提供)
- 引き合いのあった見込み客から受注して顧客にする(成約、顧客化)
- 顧客から繰り返し受注して固定客にする(固定客化)
見込み客への情報提供のプロセスを省いて、いきなり売り込みをかけてもうまくいかない、というわけです。
ITを活用する場合でも、考え方は同じなのです。
たとえば、インターネットの社内導入に必要なプロセスを洗い出してみましょう。
目的の達成に必要な仕事を洗い出してみると、
- インターネット導入の目的を明確化する
- 社員にインターネットの活用の仕方を教える
- パソコンを調達する
- インターネット活用環境を構築する
などがあります。
これらの仕事を順序付けると、次のようになります。
- インターネット導入の目的を明確化する
- パソコンを調達する
- インターネット活用環境を構築する
- 社員にインターネットの活用の仕方を教える
ITの導入を行う際に、この「洗い出し」と「順序付け」がきちんと行われないために失敗してしまうケースが非常に多いのです。
今度は、全社的な情報の共有化、で説明してみましょう。
経営へのITの活用を始める場合に、最初に取り上げることになるテーマです。
まず、情報を共有化するには、情報を共有化する仕組みが必要になります。
しかし、情報を共有化する仕組みができても、情報の共有化は実現しません。
そうです。社員が情報をパソコンに入力する必要があります。
そこで、情報の共有化を実現させるために、最初に導入するITである電子メールで情報を共有化する仕組みを作って、社員がパソコンに情報を入力するためにやるべきことを洗い出してみましょう。
まずは、熱意のある担当者を任命しないことには、なにも起きません。
電子メールで情報を共有化する仕組みを作るには、
1)社員にパソコンを与える 一人一台パソコン!
パソコンを文房具と考えて、最終的には全社員に与えたいところです。
2) 社員がパソコンを使えるようになる
社長や幹部社員が、率先して使えるようになることが重要です。
3) 社内LANを構築する
パソコン同士を無線LAN(WiFi)でつないで、情報のやり取りができるようにします。
4)電子メールを導入する
社外とのメールのやり取りをするには、インターネット環境が必要になります。
社員がパソコンで情報を管理するには、
1) 紙の書類や帳票を分類整理して、パソコンで管理運用する文書を決める
社内だけで使っている書類は、原則としてパソコンのデータで管理するようにします。
2)パソコンのデータで報告させる業務を、ルールとして作る
どうしてもパソコンに情報を入力せざるをえない仕組みを作ります。
3)社長や幹部社員が、情報を発信する
率先垂範ですネ。
また、社員がパソコンを使えるようになるには、
1) パソコンの使い方を指導する担当者を決める
パソコンが苦手な社員が、キーボードアレルギーを克服する
2) 日本語が入力できるようになる
ワード、エクセル、電子メールが使えるようになる
などが必要になります。
情報の共有化という目的を達成するためには、少なくともこれだけの仕事が必要になります。
そして、必要な仕事の中には、いくつかの手段としてのITが含まれています。
・ 社員にパソコンを与える
・ 社員がパソコンを使えるようになる
・ 社内LANを構築する
・ 電子メールを導入する
情報の共有化を実現するために洗い出したITであり、適用する順序というわけです。
この『洗い出し』と『順序付け』をしっかりを行って、目的の達成に取り組まないと、無理なIT導入計画を立ててしまうことになってしまいます。
たとえば、IT導入について熟知しているプロの経験では6ヶ月はかかる仕事を、3ヶ月でできる計画を立ててしまい、無理な計画のために、計画が途中で頓挫してしまうのです。
ERPを導入していない状態でSCMを導入しようとすると悲惨な結果になってしまいます。
ところで、必要なITの洗い出しと順序付けを的確に行うには、IT全体の体系を理解している人材が必要です。
残念ながら、IT業者に目的の達成に必要な仕事の洗い出しと順序付けを期待することはできません。
なぜなら、ハードであれソフトであれ、道具としてのITを売ることが商売であるため、自社の経営課題の解決に必要な仕事を洗い出すという作業は、彼らの役割ではないからです。
見込み客から依頼があった「解決したい課題」に適したIT製品を提案することから商談が始まるからです。
また、ITは多様化しているため、IT業者の社内では、担当する専門分野がネットワーク、データベース、販売管理、生産管理などと分かれており、一人で広い範囲を経験する場がないので「経営課題の解決に必要な仕事を洗い出す」ために必要な、幅広い経験を持つ人材は少ないのです
それなりのITコンサルタント会社であれば、IT導入の経験豊富な人材はいますが、難点は高すぎることです。
ところで、ITを、売る側の視点ではなく実際に活用する側の視点で考える立場にあるのが、企業の情報システム部門の責任者です。
ただし、同じ会社で、いつでもIT投資の必要性があることは少ないので、筆者のように、複数の企業でITの責任者としての場数を踏むことで、ITの全体体系を深く理解できるようになります。
ITの導入を途中で頓挫させないためにも ITの導入には順序があることをお忘れなく!