ERP管理者には、自己責任で判断しその結果を受け入れる勇気が必要な場合がある。それでは、私の実体験をご紹介する。

ある上場企業の情報システム部長だった頃、外部環境の急激な変化で経営の先行きが不透明になってしまった。その時期にヘッドハンティング会社から外資系企業の日本法人での情報システム部長の職を打診され転職することにした。

入社してすぐに直面した問題が、導入したばかりのERPからのレスポンスが異常に遅く、業務処理に支障をきたしていた。

私は、原因究明に際して3つの仮説を立てた。1つめは、ERPを動かしているハードの選定ミス、2つめは、ERP製品の性能上の問題、3つめは、ユーザーの運用上の不備であった。

1つめのハードの選定ミスは、早々と原因分析の対象から除外した。なぜなら、超一流企業であるI社から、機種の選定時に、実務で使う分量のデータを使ってのシュミレーションを行ったという報告を受けたからだ。2つめは、同じERPを使っている他の複数の顧客での稼動状況を調べてみたところ、ERPからのレスポンスが問題になっているユーザーは見つけられなかった。最後に、3つめのユーザーの運用上の不備の可能性を念入りに調べてみた。しかし、ユーザーのERPの使い方やERPのパラメータの設定に原因がある可能性は低いという結論を出した。

困ったナ… ハードを提供しているI社、ERPの導入支援とその後の維持管理を依頼しているS社と深夜まで協議しても解決の見通しが立たない。その間にもユーザーは不便を強いられていた。例えば、入金消し込みのデータをERPに入力してレスポンスが返ってくるまで45分かかっていた。総勘定元帳を出力すると6時間もかかっていた。これでは、とても運用に耐えられる状況ではない。

前任の情報システム部長は、情報ネットワークなどの、いわゆるIT(情報技)には詳しいが、簿記などの業務知識がなかったため、原因の分析ができなかった。
  
ある時、I社のエンジニアがハードの定期メンテナンスにやってきた。私は、その状況を近くで眺めていた。しばらくして、そのエンジニアに、いくつかの質問をした。そして確信した。ハードの機種選定ミスだと。

そこで、ハードを提供したI社、ERP導入時のハードのコンサルテーションを行っている専門家などに集まってもらい、ハードの上位更新を提言した。ハードのコンサルタントは、2段階上の機種への更新を提言した。しかし、私は1段階上の機種で十分だと思った。理由は、2段階上の機種にするには、相当の追加投資が必要で、2段階上を提言してきた理由は、単にベンダーのリスクヘッジでしかないと感じたからだ。

現場の実情からして2段階上の機種への更新でも上司はOKしたと思う。それほど現場は困っていた。しかし、私は1段階上の機種への更新を決断した。もちろん、ハードを上位更新した結果、現場が実感できるほどレスポンスが改善しなければ、私の責任が問われることになることは分かっていた。

しばらくして、ハードが上位更新された。そして、問題は解決した。ERPからのレスポンスが劇的に短くなったのだ。

数日後、オフィス内を歩いていた時、経理部長とすれ違いざまに “ありがとう” と声をかけられた。

一人で失敗のリスクを負って、最善と信じた解決策を実行した勇気が報われた瞬間だ。