ある個別受注生産の製造業向けに、ERPによる基幹システムの再構築を支援していた時の実話だ。

クライアント先でシステム再構築向けの支援を始めた当初は、30年以上前から使い込んできた “自社開発システムの入れ替え” が、システム再構築の目的だった。

手作りで開発してきた基幹システムの維持管理ができる人材が社内に2人しかおらず、そのうちの1人は、早ければ1年後にも退職する状況だったからだ。

しかし、弊社が基幹システム再構築のご支援をする際に最初に取り組む現状の業務分析、業務フローの見える化を行っていた時に “利益を増やせるネタが多い” ことを確信した。

そこで、クライアント先のプロジェクト・リーダーと私は、“利益を増やす仕組み作り”を、システム再構築の(裏の... )目的にすることにした。

業務分析を行っていた時に確信したことの裏付けを取るために、売上や利益の分析を、ERP製品の選定作業と並行して行った。

私の役目は、もっぱら、調べてほしい分析の切り口をリーダーにお願いし、リーダーは、分析の結果をエクセルデータとして抽出し、棒グラフ、折れグラフ、円グラフなど、分析結果が一目でわかるように見える化した。

最初に行った分析は、競合他社との比較だ。売上、損益、製造原価率、固定比率など、公表されている数字を使って分析した。過去3年分の棒グラフでは、クライアント企業の製造原価率や固定比率は右肩上がり、限界利益率は右肩下がりだった

限界利益率が右肩下がりということは、売上が増えても利益が増えにくい経営環境になっていることを示していた。

販売管理の業務分析を行っていた時に、営業の成績が “ 売上” で行われている、つまり利益は考慮されていないことがわかった。

このクライアント先の営業部門は、直販と代理店経由に分かれていたが、直販の営業部門の責任者からは、“利益が分かる仕組みにしてほしい”という要望があった。

そこで、営業担当者毎の売上と利益を、2年間分析してみた。その結果、利益額や利益率でトップの成績を上げている営業担当者と、ボトムの成績である営業担当者が明らかになった。

早速、トップの営業マンに面談を申し込み、トップの成績を上げるための秘訣を聞き出だした。

秘訣は、極めてシンプルだった。仕切り値よりも10%以上利益が出るように心がけている、というものだった。

さて、営業担当者毎の実績を分析した結果、気になることが見つかった。それは、代理店経由の売上が赤字になっている案件が多いのだ。

個別受注生産なので、受注した後に製造原価が決まるのは仕方がないことだ。

また、特殊原価の考え方では、例え赤字で受注しても限界利益を下回っていなければ、受注した方が得になる。

受注前の見積金額の精度にも問題があることもわかったが、ここでは割愛する。

結果的に赤字で受注してしまった代理店経由で販売した製番を重点的に調べることにした。過去10年間で赤字で受注した製番が、限界利益を下回っていないかどうかを調べたところ、多数の製番が、限界利益を下回っていることがわかった。

限界利益を下回った受注は、経営的には、限界利益を下回った分の金額をドブに捨てたことになる。それだけ代理店が儲かったということだ。

試に、限界利益を下回って受注した代理店向けの仕切り率を調べたところ、限界利益を下回っている代理店向けの仕切り率ほど低いことがわかった。

取るべき対策は、簡単だ。と思ったのだが、とても困難だった。
代理店向けの営業は、経営トップの仕事だったからだ...

管理会計の知識があると、このような分析ができるようになる。経営コンサルタント顔負けの分析だったようだ。

ちなみに、リーダーからは、弊社の名前の最初の2文字、“IT”が、カッコ付きだと手で示されてしまった...「IT経営コンサルティング」ではなく、「(IT)経営コンサルティング」 というわけだ。

ERPとは直接は関係ない実体験でした。管理会計の威力の一旦を、ご理解いただけただろうか。