ERPコンサルタントの選び方に関する実話を、ご紹介する。

尚、私がクライアント先をご支援することになるまでのプロセスも(ついでに)説明している。

ある上場企業の情報システム部門の責任者の方が、弊社のサイトで読者登録した。

その方のお名前は、Xさんとする。私は、読者登録していただいたXさんに、いつものように短いお礼のメールを送った。すぐにXさんから、困っていることを記載した返信のメールが送られてきた。こうして、Xさんとのメールでのやり取りが始まった。

Xさんのメールには、社外の人物には教えてはいけないはずの社内情報が含まれていた。まもなく、役員会向けに作成した資料が、そのまま添付されるようになった。

この経緯に驚くかもしれませんが、結果的に弊社のクライアント先になった方は、例外なく同じ行動を取っている。Xさんの熱意が本物であることがわかった(また、私をERPの専門家と見なしている)と判断できた時点でXさんに電話をした。

電話の向こうでXさん曰く、 “ 私も、ちょうど電話しようと思っていたところです。”

メールでのやり取りが続き、熱意が本物であると確信できた時点で、私の方から電話する。このパターンは、今までにご支援した全てのクライアント先に(結果的に)共通するプロセスだ。

まもなく、Xさんから訪問の依頼がきた。私は、無料では訪問していない。そうしたのは、起業当時は、無料で訪問し無料でノウハウを教えて帰っていた。結局、交通費の分だけ赤字になることが続いた。

そこで、ある時期から無料では訪問しないと決めた。訪問してしまうと、どうしても価値あるノウハウを無料で伝授することになってしまうからだ。

さて、秘密保持契約書を2通準備して、新幹線経由でXさんの企業を訪問した。契約書の日付は、最初に社内情報が含まれたメールが送られてきた日だ。

ちなみに、見込み客先を初めて訪問し電話で話した方にお会いした時は、いつも同じ印象を持つ。“あ~、電話の声と同じだ~!” と。とても初めてお会いした方とは思えないほど、すでに信頼関係ができあがっている。

まず、Xさんと2人だけで面談しました。Xさん曰く “鎌田さんを見つけたのでリーダーをやることにしたのです” と。これも、いつもと同じパターンだ。
続いて、プロジェクトのオーナーである専務を交えた面談があった。専務との面談の中で、国際会計基準について専務と私との間で意見が分かれた。

その数日後、Xさんから “専務から他のコンサルを探すようにとの指示がありました。”と のメールが届いた...

そして、3か月が経った。Xさんから突然メールが来た。“ご来社ください!” と。それも、日時指定で... 私と意見が分かれた専務は、解任されたことを知った。

指定された日時に訪問し、役員会議室近くのフロアでXさんと出番を待っていた。私は、役員の方々から面接を受けるのかな? と思っていた。 

突然、社長(とおぼしき方)が役員会を中座して、フロアで待機していた私の目の前の席に座られ “今日は面接ではありません。役員の皆さんへのご紹介です。” と言い残して(激論中の)役員会に戻って行かれた。

その企業の会長さんが、当日の午前3時過ぎまで、私がXさんに提供していた資料(日経BP社向けに寄稿した30ページ)を熟読されたことを、Xさんから後で知らされた。私の役員面接は不要と判断されたようだ。

さて、役員会で役員の皆様方との簡単な対話があった後(会長は、意図的に欠席)、会長との個別面談が組まれた。会長は、私のすぐ横のソファーに座られて、会社の状況などを熱く語られた。Xさんも、近くのソファーに座って聞いていた。

このような経緯を経て、ERPによる基幹業務システム再構築支援の契約が締結された。

 話は飛ぶ。でないと、この実話の本題に到達できないからだ。

事務局やプロジェクト・メンバーの方々との個人面談(含 部門責任者)、プロジェクトのキックオフ(社長からプロジェクト・メンバーへの辞令の交付)、業務分析、推進計画書の見直し、予算措置などを経て、ERPの選定作業を支援する段階になった。

ERPベンダーは、私が6社まで絞り込み、リーダーであるXさんと私との協同作業で3社まで絞った。そして、3社にREPを発行し提案書を提出していただき、数回のデモを経てERPベンダーによる最終プレゼンが行われた。各社の最終プレゼンが終わってから、リーダーであるXさんと私が、ERPベンダー3社のプロジェクトマネージャーを面接した。

Xさんと私は、同じ結論に達していたのかどうかは、その時点では私にはわかっていなかった。

余談だが、B社のPMは、プレゼンの席上、突然 “鎌田先生のご指導を仰ぎながら... ” と発言し、私は椅子からずり落ちそうになった。その日、初めてお会いした方だったからだ。私にゴマをすったつもりだったのだろうか...

ちなみに、3社のERPベンダーのPMとの面接の場で私が質問したことの一つを開示する。“もし、あなたと私との間で意見が対立した場合、どうしますか?”。B社のPMの回答だけが、正解だった。

さて、プロジェクト・メンバーの方々は、自分達で作った評価表 (もちろん、評価表の作り方は、私がご指導した。) を用いて3社の評価を行い、ERPベンダー(及びERP製品)を決める会議が、プロジェクト関係者全員を集めて開催された。プロジェクト関係者の評価では、A社とB社が拮抗していた。

突然、プロジェクトのオーナーである常務が、私の意見を求めてきた。常務曰く “A社の方が会社の規模も大きいし、いいと思うのですが。。。”。

A社は、クライアント先と長年取引している大手のITベンダーなので、常務としては、A社の方が安心と思っておられたようだ。

さて、私の発言だ。“ERPベンダーを選ぶときは、会社の規模などではなく、自社を担当するERPコンサル個人で選ぶのです。私の意見は、B社です。” と言い切った。

ちなみに、もしB社以外のERPベンダーに (この場合、A社) 決まった場合、弊社は契約の解除を求めることになった。なぜなら、弊社の使命は、ERP導入の失敗を避けることであり、自分が、そのクライアント先向けには最適と思っていないERPベンダー(及びERP製品)が選ばれた場合、自分が納得できていない状況でお金をいただきながらご支援を続ける訳にはいかないからだ。

私が自分の意見を述べた直後にリーダーのXさんが発言した。“B社がいい方は、拍手をお願いします。”

常務と私を除いた方々が、一斉に拍手したようだ。リーダーであるXさんも、B社を選んでいたことがわかった瞬間だ。でも、結果的には、プロジェクト関係者全員の総意でB社に決まったことになる。

私が常務から意見を求められた時、“A社がいいと思います。” と回答することもできたはずだ。現実には、そのような異見は、全く考えていなかった。なぜなら、自分にウソをつくことはできないからだ。

ERPベンダーは、その企業の知名度や規模で選ぶのではなく、自社のERP導入を実際に担当するERPコンサル(個人)の力量で選ぶ必要がある。なぜなら、ERP導入プロジェクトに直接関わるのは、【自社向けに割り当てられた】 ERPコンサルタントだからだ。

ちなみに、私がPMを面接することを知ったERPベンダーは、優秀なERPコンサルを割り当てるようだ。PMの面接試験で落とされると、それまでに費やしたそれなりの工数や交通費が無駄になってしまうからだ。(なぜ、それが私にわかるのだろうか。ERPメーカーでのERPコンサルの実体験があるからだ。)

閑話休題、

弊社は、窓口となるリーダーの方と実際にお会いするまでに、信頼関係が構築できそうか判断していることを、ご理解いただけたと思う。(弊社の経営方針に記載している。)

自社のERP導入を支援してもらうERPコンサルタントは、企業の知名度などではなく自社を担当することになるERPコンサルタント個人の力量で選ぶ理由を、ご理解いただけただろうか。

少なくともERP業界では、価値あるノウハウは(企業ではなく) 個人に属している。