導入したERPを経営に効果的に活用できるかどうかは、ERPの導入を決めてから本番稼動するまでの間の導入プロセス が大きく左右する。

但し、実際の導入プロセスでは、ここに書いてある項目のいくつかを同時並行的に行う必要がある。

企業環境によっては、実行順序を入れ替えた方がいいかもしれない。

なので、それぞれの項目の内容を理解することに焦点を当ててください。

尚、一般的な説明をするつもりはなく、要点に的を絞っている。

それでは、気合を入れて学習しよう。

■ プロジェクトリーダーの任命

『ERPの導入プロセス』は、なにから始まるのだろうか?

それは、ERPの導入を推進するプロジェクトリーダーの任命だ。

誰が任命するのだろうか?  社長かもしれないし、役員(CIO)かもしれない。

言えることは、プロジェクトリーダーが決まらないことには、誰も導入を推進しないということだ。

でも、プロジェクトリーダーが決まった時点で、導入プロジェクトが失敗するかどうかが、事実上決まってしまう。

成功するかどうかは、わからない。でも、失敗するかどうかは、ほぼ確実にわかる。

この違いは、意味深長だ。

■ プロジェクト推進プランの作成

プロジェクトの推進プラン(※)は、プロジェクトリーダーが作ることになる。

なにを、いつ、だれが、マイルストーンなどを書く。

それでは、プロジェクト推進プランに書く内容を、説明することにする。

   ※ ERP導入(マスター)プランとは、異なる。
   ※ この段階では、ERPベンダーのERPコンサルタントは、まだ加わっていない。

■ 目的(の明確化)

なぜ、ERPを導入するのだろうか?

  • 現行のシステムがリースアップするから?
  • 業務システムをグローバル・スタンダードに変えるため?
  • 情報を一元管理/リアルタイム処理して、意思決定に必要なデータを迅速に手に入れるため?
  • 部門間の連携を強化して、業務改革の迅速化を図るため?
  • 海外拠点との連携を強化するので業務システムを共通化する?
  • Eビジネスに参入するためのインフラ整備?
  • SCMを導入して取引先と連携して在庫削減に取り組むため?

それとも

  • 曖昧な業務処理ルールを明確化するため?
  • 部門間の業務処理を連携して無駄を排除したい?
  • 業務処理を自動化して生産性の向上を図りたい?
  • 経営意思決定向けデータを迅速に提供したい?
  • 受注から納品までのリードタイムを短縮したい?
  • 月次決算処理を早めたい?
  • 原価管理の精度を向上したい?
  • 過剰な製品在庫を低減したい?
  • 営業の需要予測の精度を向上したい?
  • 購買のコストを大幅に削減したい?

一言、お断りしておく。

ERPを導入したからといって、上記の目的が自動的に達成されるようなことは、残念ながらありえない。

ERP導入時や導入後の社員の意識改革や業務改革などの地道な作業を継続して、ようやく達成されるのだ。

帳簿在庫と実在庫の差異が2%以上もあるような管理レベルだと、ERPの導入前に業務改善(あえて、業務改革とは呼ばない)を行うことの方が先なのだ。

業務ルールの明確化、業務改善、周知徹底 ...

言うはやすく、行うは難し。

ちなみに、CMM(Capability Maturity Model)というITベンダーのソフト開発の管理能力を図る指標がある。

レベル1
   プロセスが定義されておらず、業務のやり方は場当たり的

レベル2
   プロセスは定義されているが、属人的でドキュメントなし

レベル3
   プロセスが定義されており、部門として共有化している

レベル4
   プロセスが全社的に標準化されており、定量的に測定可能

レベル5
   全社的に標準化されたプロセスが、継続的に改善されている

このコンテンツでは、ERPの経営への効果的な活用のコツに絞っているが、ERPを経営に効果的に活用するには、部門横断で業務改革を推進できる企業文化 が必要だ。

目指すハードルは高い。

『ERPの導入プロセス』 に含まれる項目に戻ろう。

■ 目標(の設定)

目標には、『なにを』、『いつまでに』 を書く必要がある。

初めてERPを導入する企業では、社内にERPの導入を推進した経験のある人材はいないのが普通だ。

なぜなら、ERPの導入は、1つの企業では1回しか経験しないからだ。

とは言っても、導入したERPを入れ替えている企業が4割を超えているようなので、2回目を経験している企業が相当あるようだ...

(私の実体験では、2回失敗した企業は、3回目も失敗している。)

閑話休題、

プロジェクトリーダーは、全体のスケジューリングを行うことになる。

プロジェクトリーダーが、リーダーシップを発揮して主体的に推進することは、言うまでもない。

ところで、目標を達成したかどうかは、どうやって検証するのだろうか?

   KPI(Key Performance Indicator)などの測定可能な指標を、事前に設定しておく手もあるが、ERPの導入効果を定量的に測定しようとは、この時点では深く考えない方がいい。

なぜなら、ERPが本番稼動した時点では、まだ50%しか終わっていない からだ。

リーダーは、本番稼動した時点で燃え尽きないように!  

私は、ユーザー企業でのERP導入・活用の実体験が豊富なので、リーダーの気持ちはよくわかる。

ところで、経営者がERP導入の効果を感じるようになるのは、ERPが本番稼動してから、早くても半年後くらいになる。理解できますか? 

このことを理解できるあなたには、このコンテンツを読み続けるのは、 “時間の無駄” かもしれない。

もちろん、設定した目的や目標にもよるが...

■ 対象範囲(の設定)

いわゆるERPは、会計、販売管理、購買管理、在庫管理、生産管理、人事管理などの、モジュールから構成される。

どのモジュールを導入する/導入しないを決める必要がある。

現実には、ERPのモジュールで対象範囲を決めるというよりも、例えば “人事管理、技術管理、品質管理は対象外とする” など、対象範囲外の部門も明記する方が、わかりやすいはずだ。

但し、一度に全部導入するのか、段階的に導入するのかは、選択できる。

もっとも、ERPを導入するからには、全てのモジュールを導入してしまわないと、統合化(データの一元管理化)のメリットが生かせないことになる。

■ 導入方針(の決定)

ERPを導入するには、いくつかの方針を決める必要がある。

業務をERPに合わせる  vs.  ERPを業務に合わせる

ERPを業務に合わせる方針を採用すると、その時点で、ERPが経営に貢献できる様々なメリットを生かせなくなると断言できる。

なぜなら、ERPを業務に合わせるということは、ERPのプログラム(ソースコード)を変更することを意味するからだ。

そうすると、ERPのバージョンアップができなくなってしまう。

なぜなら、ERPを開発したメーカーは、“変更前” のERPに、新たな機能を追加してバージョンアップし続けるからだ。

なので、ユーザー側でERPのプログラムを変更してしまうと、そのプログラムは、バージョンアップしたERPでは動かなくなる。

一括導入(ビックバン導入)  vs.  段階的導入

モジュールを一括して導入する方式は、正直大変だ。リスクが高い選択肢だ。

でも、できるだけ一括導入することをお勧めする。
なぜなら、段階的に導入すると、コストがとても高くつくからだ。

例えば、一括導入では、不要なインターフェースソフトを開発する必要がある。

また、導入期間が長期間に及ぶことになり、プロジェクトメンバーも大変だ。
プロジェクトのメンバーが、緊張感を保てなくなるからだ。

■ プロジェクト推進体制(の確立)

プロジェクトリーダーは、ERPの導入を前向きにとらえている各部門のキーユーザーを、是非ともプロジェクトのメンバーに加える必要がある。

各部門の責任者に選んでもらうやり方もあるが、そのメンバーがERPの導入に否定的だった場合、導入の失敗を招く要因になる。

なぜなら、そのようなキーユーザーは、自分の時間を導入プロジェクトに積極的に割こうとしないからだ。

と言うよりも、後ろ向きのメンバーが一人でもいると、他のメンバーに悪い影響を与えてしまうからだ。

尚、プロジェクトリーダーとプロジェクトメンバーの相性も重要だ。

いずれにせよ、改革意欲の高いメンバーの参画 が不可欠だ。

いつのまにか 『なぜERPの導入は難しい?』 になっている...

『ERPの導入プロセス』 に含まれる項目の説明を、続ける。

■ 導入スケジュール(の策定)

導入スケジュールを立てるコツは、

  1. 本番稼働日を決める    → 無理がない?  緊張感を保てる?
  2. 全体の中間地点を決める     ← 導入の実体験が必要
  3. 全てのタスクを割り振る

ここまでは、プロジェクト推進プランに書く項目を説明してきた。

以下の項目( ■ と 太字で表示 )は、プロジェクト推進プランを完成させる時点までに確定している場合もあり、確定していない場合もある。

なので、項目の順序は気にせず 『ERPの導入プロセス』 として必要な項目、という認識で読むようにしてください。

例えば、外資系企業で親会社から、“このERPを導入する” という方針が決められた場合、よほど日本での業務環境の特殊性がない限り(普通は、そんなことはない!)、ERPの選定プロセスは不要になる。

 “いやいや、うちは他の企業と違って、けっこう特殊だよ”

そうですか…  ということは、業務改革の余地が大きいということですネ!
だって、グローバル・スタンダードな業務プロセスに変えるんでしょ?

その特殊な業務プロセスは、本当に自社の競争力の源泉の一部ですか?

■ ERPパッケージソフトの選定

ERPはどうやって選べばいいのだろうか?

  • 知名度?  確かに...  安全策ですネ
  • 導入実績?  日本で? 世界で? 業種で? 業界で?
  • 導入コストが少ないERP?  費用対効果なのでは?
  • いいテンプレートがある? なるほど
  • 機能のフィット&ギャップ分析の結果?  どうやってやる?  そもそも必要?
  • 経営課題を最も解決しそうなERP?  課題は整理できていますか?
  • データベースを公開しているかどうか?  するどい !

評価項目は、いくらでもありそうだ。

私なら、ケプナー・トリゴー法を使う。 合理的に意思決定する手法だからだ。

その意思決定に至ったプロセスも説明できる。いわゆる “説明責任” のことだ。

ちなみに、日本とERPの発祥地であるヨーロッパや米国とでは、導入しているERPは、だいぶ異なる。

そりゃー、そうでしょ。

“欧米のERPだと、手形は扱えないでしょう? ”

扱えるERPも、扱えないERPもある。

但し、手形は、グローバル・スタンダードには含まれていないが...

ところで、プロフォーマ・インボイスを、知っていますか?

英語では、Proforma Invoice と書く。

手形は、支払の先延ばしだが、Proforma Invoiceは、お客様から前もって支払ってもらわないと荷物を出荷しない時に使う。

すごい強気の商売の仕方だネ!  どこで、そんな商売ができるの?

はい、ここは中国です。とんずらされたら困るので...

国によって、いろんな商習慣があるんですネ!

近年、中国ではAlipayなど、信用を担保する仕組みができている。

『ERPの導入プロセス』 に含まれる項目だ。

■ ERP導入コンサルタントの選定

ここでの最大のポイントは、ERPベンダーで選ぶのではなく、ERPコンサルタント個人で選ぶことにある。

なぜなら、ERPの導入ノウハウは属人化しているからだ。

また、ERPコンサルタントとERP導入プロジェクトリーダーとの相性も重要だ。

もっとも、社内にERPの導入を推進する人材がいなく、リーダーの役割をERPベンダーに任せた場合は、相性を気にする必要はなくなる。

その時点で、ERPへの高額な投資コストを回収できる見込みは、なくなるが。

尚、ERPベンダーを選ぶ際には、稼働後のERPの運用管理も考慮する必要がある。

ERPの導入を支援したベンダーが倒産したら、運用管理に支障をきたすことになるからだ。

■ 導入コストの洗い出し

ERPを導入する際のコスト項目を洗い出してみよう。

  • ERPパッケージ・ソフトのライセンス費
  • ERP導入コンサルティング費    ;1時間5万円の例があったが...
  • 追加開発ソフト(いわゆるアドオン)
  • システム移行ソフトの開発費   ;過少見積りしない
  • ERPを動かすために必要な基盤の構築費(ハード、クラウド...)
  • ERPの教育/訓練費    ← 非常に重要!
  • 現状の業務分析(業務フローの作成)/新業務フローの作成費


最後の項目は、さほど考慮されていない(実施しない)かもしれない。

でも、私は、必須だと断言できる。

失敗の可能性を、大幅に減らすために... (自社に最適なERPを選定するために)

スクラッチ開発では実現できない ゼロベースでの業務改革を推進するためだ。

ちなみに、業務マニュアルは、キーユーザーが作成することになる。

そのためにも、キーユーザーへのERPの教育/訓練は、とても重要だ。

そして、キーユーザーが自部門のユーザーを指導することになる。
 繰り返し、繰り返し、何回も、何回も…  納得してもらうまで...

■ 現状の業務分析

 企業で、会社全体の業務の流れを一番理解しているのは誰だろう?

 社長? そうかもしれない。経理部長? 多分...

 今、使っている業務システムを開発したIT部門の方かもしれない。

いずれにしても、現状の業務分析が必要だ。

私なら、お金を払って全社的な業務フローを作成する。確実に。

なぜ? 

ERP導入前の業務フローを作成しても、ERPを導入したら、せっかく作った業務フローは無駄になるでしょう?

おっしゃる通りです。 でも私は作成します。

それでは、質問します。

ERPを使うことになる現場のユーザーは、現状の業務の流れとERP導入後の業務の流れの違いを、どうやってERPの “本番稼動前” に理解するのですか?

そのERPを毎日使うことになるのは、誰ですか?

そのERPを毎日使うことになるユーザーが、ERPを使う前とERP導入後の違いを理解しないままERPを使い始めると、どういう悲惨なことになるか想像できますか?

いつのまにか、またもや 『なぜERPの導入は難しい?』 になっている...

業務フロー(と業務ルール)を見える化して一元管理する仕組みを作ることは、部門横断での業務改革を行う上で不可欠だ。なぜなら、業務フローは部門横断で通用する共通言語 だからだ。

ちなみに、現状の業務分析には、次の項目も含まれる。

  • 現状のコード体系(※)の整理/分析、見直し方針の決定
      ※ 勘定科目、品目マスターなどに含まれるコードのこと
  • 現状の主要な問題点の整理(できれば、その原因を分析しておく)

予想通り、このページは長くなってしまった... なので、分割することにする。

続きは、ERPの導入プロセス(2) をお読みください。