システム部門に、ERPの活用を推進できるスキルをお持ちのERP管理者がいるという前提で説明します。

日本基準との違いや、その違いが自社の業務プロセスや業務システムに与える影響 - システム部門での対応が必要な項目 - を感覚的に理解しておく必要があります。その準備さえできていれば、全社的なIFRS導入プロジェクトの中で、システムでの対応の仕方についての見解を的確に説明できるようになると思います。システムばかりでなく、業務プロセスの再設計についても、ERP管理者が主体的に推進できるようになるはずです。

日本基準との違いとインパクト【例】 

  • 連結子会社の定義が変わる
    日本基準では議決権の過半数「形式基準」、IFRSでは支配しているかどうか「実質基準」
    インパクト: 連結対象子会社の範囲が広がる。
  • 退職給付会計の計算が毎期必要  ⇒ 毎期の利益に影響
    給付水準の改定をした場合、元従業員の給付についても遡って再計算
    インパクト: 改定した場合、遡って再計算が必要になる。
  • 金融商品の評価  取得原価 ⇒ 時価
    取得原価ではなく市場価格を推定して再評価
    インパクト: 市場価格を推定しなくてはならない。
  • 海外子会社の財務諸表の換算方法  ;いわゆる外貨建取引
    収益や費用は、決算日のレート ⇒ 取引日のレート
    インパクト: 取引日のレートを記録する仕組みが必要になる。
  • 減損会計 
    日本基準では固定資産の回収可能価格は現在価値に割り引かないで減損したときだけ
    ⇒ 回収可能価格を現在価値に割り引く、回復したら減損の戻し入れが必要
    ⇒ 毎期、減損テストが必要
    インパクト: 割引計算が必要、回復したら減損の戻し入れが必要になる。
  • 企業結合会計 M&Aに関わる会計処理 @2006年4月
    持分プーリング法 ⇒ パーチェス法
    インパクト: 持分プーリング法を採用している企業は、パーチェス法への切り替えが必要になる。
  • 棚卸資産の評価方法は低下法 (2008年4月から導入)
    低下した棚卸資産の価値が上がった場合
    ⇒ 日本基準では切放し法か洗替法、IFRSでは洗替法だけ
    インパクト: 在庫管理システム、原価管理システム、経理システムに影響する。
  • 工事契約に関する会計基準
    工事進行基準 @2009年4月  ⇒ 工事完成基準?
    インパクト: (工事進行基準に変えたばかりなのに)完成基準に仕組みを戻す必要があるかもしれません。
  • 資産除却債務の取得原価主義ではIFRSの考え方は理解できない @2010年4月
    一億円で10年間土地を借りて建物を建てて10年後に原状回復(更地)する
    原状回復費用(1千万円)を土地を借りた時点で建物と一緒に減価償却する
    10年後の1千万円は、現在価値に割り引いて計上する
    インパクト: 資産除却債務計算の仕組みを変える必要がある。
  • 過年度遡及修正
    今期、過去の財務諸表の間違いが発見された ⇒ 遡って修正
    インパクト: 過去から今期までの全ての財務諸表を修正する必要がある。
  • 棚卸資産の評価  後入れ先出し法の廃止 @2010年4月
    インパクト: 後入れ先出し法を採用している企業は、仕組みを作りかえる必要がある。
  • のれんの償却
    毎期20年以内に償却  ⇒ 償却せず、減損処理
    インパクト: 税金が増え、減損したら包括利益にそのまま影響する。
  • 開発費の資産計上
    1999年4月から、発生年度に全額費用計上
    ⇒ 開発費は無形資産計上の要件
    インパクト: 10年前に変えた会計基準を、また変更することになる。
  • 有形固定資産の耐用年数
    税法の耐用年数表(パソコンは4年) ⇒ 資産毎に耐用年数を見積もる
    インパクト: だれかが(使用者?)耐用年数を決める必要がある。
  • 中間財務諸表
    4半期財務諸表(3ヶ月単位) ⇒ 累計ベース(第2四半期は6カ月分、1月から)
    インパクト: 計算する期間が違ってくる。
  • 収益の認識基準
    出荷基準 ⇒ 検品基準 ⇒ 着荷基準?
    インパクト: 売上高を直接左右する。

ERP管理者は、各々の項目のインパクトに対応するために、自社の業務ルール、業務プロセス、業務システムで、どのような対応が必要になるかを洞察し、今のERPで対応できるかどうかを、IFRS導入プロジェクトの初期の段階で検証する必要がある