連結財務諸表を作成している上場企業は、IFRS(国際会計基準)強制適用への対応が必要になります。
2010年4月に、50社以上のシステム部門の責任者に電話で調査したところ、
- 経理部門の仕事(システム部門は関係ない)と思っている方 - 2割
- 対応の必要性は認識しているが、まだ先のことと思っている方 - 2割
- 無料のセミナーなどに参加してIFRSの調査を始めている方 - 2割
- 監査法人と対応の仕方について協議を始めている方 - 2割
- 連結パッケージで対応予定の方 - 1割
- 自社開発システムをERPに入れ替えて対応予定の方 -1割
調査結果から、
- IFRS強制適用への対応が間に合わなくなってしまう可能性が高い企業が多い
- IFRS強制適用に向けた活動を始めているシステム部門は少ない
ことがわかりました。
仮に、IFRS強制適用の時期が確定してから対応を始めると、
- 短期間(3年以内)での対応になってしまう
⇒ IFRS導入プロジェクトが失敗するリスクが高くなる - 同じ時期に外部への支援を求める企業が多くなる
⇒ 外部に支払うコストが割高になる(需要と供給の関係)
IFRS強制適用への対応を始める時期が、遅ければ遅いほど失敗のリスクが高く、コストが割高になります。逆に、IFRS強制適用への対応を早く始めるほど、より安全に対応できることになります。
IFRS導入プロジェクトは、
- IFRSの影響分析
⇒ IFRS導入実行計画書 - 会計方針の決定~システムでの対応計画
⇒ 会計方針書、新業務プロセス設計書、新システム対応計画書 - 業務プロセス・システムの導入
⇒ 新業務プロセス、新業務システム、各種規定集、業務マニュアル - 比較年度財務諸表の作成
⇒ 前年度の連結財務諸表 - 本番
⇒ 初年度の連結財務諸表
という5つの工程に分かれます。
その中で、自社向けの(IFRSに準拠した)会計ルールを決めて、決めた会計ルールに沿って業務プロセスを見直し、見直した業務プロセスを業務システムに落とし込む、という作業を行います。
ここで、IFRS強制適用への対応時期を、ERP導入企業と自社開発システム企業に分けて分析してみます。
- ERPを導入している企業の場合、経理部門が会計ルールを決めてから、システム担当者が、”IFRS向けのパラメータを選択する” ことになります。
- 自社開発システムで業務処理を運用している企業の場合、経理部門が会計ルールを決めてから、IFRS向けのソフトを設計・開発することになります。
ということは、
- IFRS導入プロジェクトは、ERP導入プロジェクトよりも難易度が高い可能性があります。なぜなら、会計ルールが最終決定してからでないとIFRS対応に必要なパラメータを決められないからです。
- 仮に2024年度決算から強制適用された場合、自社開発システムでIFRSに対応するには、遅くとも2024年4月までにはシステムを完成させる必要があります。
IFRSが改定され続けることを考慮すると、1企業が自社開発システムでIFRSに対応し続けることの妥当性を見直す必要があるのではないでしょうか?
今度は、IFRS強制適用を、ビジネス・チャンスと考えてみましょう。
グローバルにビジネスを展開している企業では、
- 複数帳簿の仕組みを構築して業務の生産性を向上させるチャンスではないでしょうか?
- 全拠点の業務システムをグローバル・スタンダード(ERP)に統一して、経営を “見える化” するチャンスではないでしょうか?
ところで、経営者が早急に取り組むべき課題は何でしょうか?
IFRSへの対応を推進できる社内人材の確保 です。
- IFRSに準拠した会計ルールを的確に設計できる経理部門の人材
- 部門横断での業務プロセスの変更を強力に推進できる業務部門の人材
- 業務システムに求められる機能を確実に構築できるシステム部門の人材
ERP導入プロジェクト・リーダーがERP導入プロジェクトの成否を左右するように、IFRS導入プロジェクトの成否は、IFRS導入プロジェクト・リーダーが左右することになります。