本サイトでは、ERPの具体的な製品名を使うことは意識的に避けているが、この記事では内容を理解しやすいようにSAP社のERP製品を使って説明することにする。

まず、ERP製品が満たすべき要件を確認しよう。

“ERP” を冠していてもERPの要件を満たしていない “自称ERP” が少なくないからだ。

ERP製品が満たすべき3つの要件

  1. 企業の基幹業務処理に必要な業務システムを網羅していること
    • 会計(財務会計、管理会計)、販売管理、購買管理、在庫管理、生産管理向けの業務システム(以下、ERPの分野で用いる “モジュール” )を含んでいること
    • 人事管理モジュールについては、他のモジュールと連携させる必要性が薄いので対象外
  2. モジュール間の連携がリアルタイムに処理されること
    • データベースは、一元化されていること(論理的に分割されていないこと)
      マスターファイル(顧客マスター、品目マスター、など)は、1つしか存在しないこと
      マスターファイルが複数存在すると、マスターファイル間の整合性を保つために人手を介したバッチ処理が必要
  3. “受注~売掛金の回収” などの主要な業務処理の流れが、テンプレートとして提供されていること
    各々のモジュールのパラメータを選択設定することで、自社の業務に適した処理の流れにカスタマイズ(※)できること
    • パラメータの数が充実している(= 機能の選択肢が多い)と追加開発が減る
    • 逆に、パラメータの数が多すぎると一人の人間ではカバーしきれなくなってしまう

      ※ カスタマイズとは、ERP製品のソースコードを書き換えること。
      ※  SAP製品では、パラメータの設定作業をカスタマイズと呼んでいる。

次に、ERPコンサルタントの習熟レベルについて、私の見解を述べる。
まず、“SAPコンサルタント” の認定資格について理解したい。

認定資格は、モジュール毎に分かれている。

  • FI - 財務会計モジュールについて認定
  • CO - 管理会計モジュールについて認定
  • SD - 販売管理モジュールについて認定
  • MM - 在庫・購買管理モジュールについて認定
  • PP - 生産管理モジュールについて認定

   ※ SAP製品のモジュール名は、R/3(SAP ERPでは、ECCに含まれる)用語を使用

“SAP認定コンサルタント” と名乗っていても、ほとんどのSAP認定コンサルタントは、1種類の資格しか持っていない。
なので、SAP製品を導入しようとすると、モジュール毎に異なるコンサルタントが必要になる。(中小企業向けのBusiness Oneは、例外)

会計で2人(FIとCO)、SDとMMとPPで各々1人、それにPM(プロジェクト・マネージャー)を加えて合計6人だと、1人月額300万円として、合計で月額1800万円になる。

仮に一人のERPコンサルがすべてのモジュールをカバーしていれば、月額400万円としても4分の1以下の費用で済むことになる、ということにお気づきだろうか?

大量の作業を一人でこなせるのかという問題は残るが...

下記の習熟レベルは、認定資格制度がないERP製品の場合は、認定資格者と同程度のスキルがある、と解釈してほしい。

ERPコンサルタントの習熟レベル

レベル1 - 新米

  • 1つのモジュールの認定資格者
    導入の実体験はないが、担当するモジュールのパラメータ設定作業はできる
  • ユーザー企業から高額なお金をいただきながら経験を積むことになる
  • 私は、新米を受け入れたことがある( ⇒ 3度目の失敗を阻止

レベル2 - 作業員

  • 1つのモジュールの認定資格者
  • 導入の実体験があるので、導入作業の流れを理解している
  • 知識をスキルとして活用した実体験が少ないため、SAPでできる要件でも “追加開発するしかない” と助言してしまい、顧客が無駄な投資をしてしまうことがある
  • 自社開発システムに例えれば、システムの運用管理ができるレベル

レベル3 - 半人前

  • 1つのモジュールの認定資格者
  • 3回程度の導入支援の実体験があり、他のコンサルと協力して追加開発の必要性を適切に判断できる
  • 他のコンサルとの協同作業でフィット&ギャップ分析ができる

レベル4 - ERPコンサルタント

  • 1つ以上(除 会計と生産管理の組み合わせ)のモジュールの認定資格者で、他のモジュールについても概要を理解している
  • 担当業務のフィット&ギャップ分析ができる
  • 現場のキーパーソンと協議しながら適切なパラメータを決定できる
  • このレベルから “ERPコンサルタント” と呼べる

レベル5 - ベテランのERPコンサルタント

  • 見える化された業務フローを眺めただけで、フィット&ギャップができる
  • 会計と生産管理の資格を保有している(⇒ ほとんどすべての業務領域をカバーしている)
  • ERPでは解決できないような難しい状況でも、解決策を創意工夫することができる
  • SAP製品では、このレベルのERPコンサルタントはいない?

以上、“ERPコンサルタントの選定方法” ではなく、ERPコンサルの習熟レベルを説明した。

少し頭をひねれば、ERPコンサルタントの選定方法を説明していることが、わかるはずだ。

  • 中規模のERP製品であれば、一人ですべてのモジュールをカバーできる
  • 会計と生産管理の両方に精通しているコンサルタントを確保したい ものだ。

ERP製品の選び方

ERP製品を選ぶ場合、経営課題、適用範囲(ERP導入の後でCRMやSCMの導入も計画している、海外拠点にも展開予定、など)、システム部門の人材などの要因により、製品を選ぶ際の評価項目が異なるので、どの企業にも適用できるような選び方はない。

ちなみに、レベル1~5のERPコンサルタントは、ERP製品を選定した経験はない 事実にお気づきだろうか。

代わりに、ERP製品を選ぶ際の留意点を、2つ説明する。

  1. パラメータの数(ERP製品の規模)
    • 一人の人間ではカバーしきれないほどパラメータが多いERP製品を選択すると、導入コンサル費用が高額になってしまう
    • 導入後の継続的な業務改革を考慮すると、パラメータの数が多いERP製品の方が追加開発の必要性は減る
  2. 導入作業を担当した人材(ERPコンサルタント、SE)が支援する時期
    • 海外製のERP製品を扱うERPベンダーのERPコンサルタントは、本番稼動をもって作業を終え、導入後の維持管理は、ヘルプデスク(ベンダー企業の事務所に常駐している人材)が対応する
    • 日本製のERP製品の場合、導入作業を行った(コンサルタントとは呼ばず)SEが、導入後も対応し続ける場合が多い(※) 

       ※ この違いが、日経コンピュータの “顧客満足度調査” に反映されている。

ERPの導入を支援した人材が、本番稼動するまで担当する(⇒ ERPコンサルタント)のか、導入後も対応し続ける(⇒ SE)のか、の違いは、極めて重要だ。

なので、言葉を換えて、もう一度説明する。

海外製のERPを扱うベンダーと日本製のERPを扱うベンダーの導入後の支援体制の違いは、導入したERPを活用できるかどうかを大きく左右するので、ERPベンダー選定時の重要な評価項目だ。

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